2011年10月16日日曜日

海外大学の授業は本当に素晴らしいのか? -UBC授業の長所短所-

日本の大学の友達と話しているとよく「日本の大学の授業は、教授が一方的に話すだけでつまらない。学生が勉強に熱心でない責任の一端は大学側にある」といった趣旨の不満を聞くことがあります。一方で海外大学の授業(特にアメリカ)については、マイケル・サンデルのハーバード白熱教室が昨年大ブームになったのに象徴されるように「インタラクティブで面白い」「教授がしっかりと準備をし、とても作り込まれている」というイメージがあるように思います。

UBCで授業を受け始めて一ヶ月半が経ちましたが、今回はこのようなイメージが正しいのか、UBCの授業のいいところ・悪いところを紹介しながら検討してみたいと思います。今回は授業内容については詳しく触れませんが、参考までに以下の五つが現在私が受けている授業(聴講含む)です。

Intermediate Microeconomic Analysis(中級ミクロ経済分析)
Intermediate Macroeconomic Analysis(中級マクロ経済分析)
East Asian Military systems and warfare China(東アジアの軍事システムと中国の戦争)
International Relations Theory and the International System(国際関係理論と国際システム)
Elementary Statistics for Applications(応用のための初等統計)

いいところ①:学習サポートが手厚い
まず第一に挙げられるのは、大学側が「どうすれば高い学習効果の授業が実現できるか」をよく考えているため、学習サポートが大変手厚いことです。経済学や統計の授業では課題や小テストが頻繁に出されるため、学生は定期的にそれまでの学習内容を復習し、かつ自分の頭で考える機会を得ます。課題や小テストは全て採点され、VISTAと呼ばれる授業管理用のウェブサイトで平均点、最高点/最低点なども発表されます。このサイトにはディスカッションのページが設けられており、課題提出前には、問題の解釈などについて学生の間で頻繁に議論が交わされています。


ウェブ上で試験の点数などが確認できる

他にもVISTAでは授業用のスライド、リーディングアサインメントなどがダウンロードをすることが出来、著作権の問題でウェブ上で共有できない論文は、まとめて印刷されてブックストアで販売されています。日本の大学では、資料室に行っていちいち自分で印刷しなくてはいけなかったので、大変便利です。


ブックストアで販売されているカスタマイズされた論文集

またいくつかの授業では、i-Clickerというシステムを使って、授業中に選択問題が出題され、学生がクリッカーにあるボタンを押して回答する、というものがあります。学生のクリッカーは全て登録されており、この正答率が成績に反映されるので、学生は真剣です。

授業中に出されるi-Clikerでの選択問題

以上のように、大学による学習サポートは大変工夫されており、これが授業の満足度の向上につながっていることは間違いありません。日本の大学のように、教授が延々としゃべりつづけるだけの授業がひたすら続いて、成績は期末試験の一発勝負、という授業はUBCではまずあり得ません。

いいところ②:教授のプレゼンが上手い
続いて挙げられるのが、授業を教える先生のプレゼンの上手さです。全員に当てはまるわけではありませんが、多くの先生が堂々とボディーランゲージを交えながら授業を展開するため、学生もより集中して授業に耳を傾けます。

私の受けている「東アジアの軍事システムと中国の戦争」という授業では、カナダ人の先生が3時間連続で弾丸トークを展開します。内容は諸子百家や孫子の兵法など、きわめて堅い話なのですが、実際のエピソードをユーモアを交えながら紹介しつつ重要な概念を説明するので、聞いていて全く飽きません。

こういったプレゼンの上手さについての日本とアメリカなど欧米諸国の違いは多く議論されていますが、参考までに先日twitterで話題になっていたアメリカの小学校でのプレゼン指導についてのブログ記事を紹介します。

http://kateikyoiku.blogspot.com/2011/09/blog-post_20.html

いいところ③:「勉強するのが当たり前」という雰囲気
最後に挙げられるのは、これは授業というより大学全体の雰囲気の話になるのですが、学生の勉強に対する意識が大きく異なることです。

先ほど述べた通り、出される課題の量がきわめて多いので、学生は時間を見つけては常に勉強しています。土日の夜11時すぎでも、大学の図書館は人であふれ、多くの学生が課題や試験勉強に励んでいます。このような環境にいると、周りに刺激されて自然と勉強をしよう、という気持ちになります。こうした相乗効果が、学生全体がより多くのことを学習するのに貢献していると思います。

少し話がそれますが、このような学生の勉強に対する姿勢の背景には、退学率の高さも関係しています。UBCでは、学部によっては半分近くの学生が単位を取得できず、退学になっているという話を聞きました。ブリティッシュコロンビア州のコミュニティカレッジ*1では、UBCを退学した学生のための、「もう一度UBCに入り直そう!」という目的のコースまであるそうです。

さて、以上のようにUBCの授業の長所を挙げてきましたが、必ずしも「UBCの授業万歳!」という訳ではありません。授業を受ける中で、いくつか問題点も見えてきました。

悪いところ①:必ずしも授業の質が高いわけではない
UBCの授業を受けていて残念に感じたことの一つが、学習のサポートは素晴らしくても、授業そのものも素晴らしいとは限らない、ということです。私の在学している東大と比べて、UBCの指導教員はきわめて若く、かつ様々な国籍の人が集まっています。私の受けている5つの授業の内3人は(外見上でしか判断できませんが)明らかに30代で、また国籍もカナダ人は一人だけで、イギリス、ブラジル、中国、イスラエルとバラバラです。

その若さゆえに、教えている内容についての教員自身の理解度について、聞いていて不安になることがしばしばあります。ミクロ経済の授業で基本的な需要曲線のx軸y軸の単位が怪しかったり、計算ミスを繰り返したり、学生の質問に対しても正確に回答をできていない、ということが日常的に起こるのは、その学術分野の第一線で活躍している教授の多い東大ではあまり考えられないことでした。

また国籍が多様なため、英語のネイティブでない教員も多くいます。このため、中には授業の内容を限定された語彙力でしか説明をすることができておらず、なにか底の浅い印象を受けてしまう授業もあります(同じくネイティブスピーカーでない私が偉そうに言えることではありませんが…)。

UBCの教員採用ポリシーについてはよく知りませんが、「教員一人に対する学生の割合が小さい」という一般的に言われるアメリカやカナダの大学の特徴は、必ずしも教員の質を維持した上で実現されている訳ではないのかもしれません。

悪いところ②:学生の質問が授業の進行を妨げる
欧米の大学の授業と聞くと、学生が積極的に発言し、教員との活発なインタラクションがある、というイメージがあるかもしれません。

これはUBCでもたしかに事実です。学生が手を挙げて質問をすることは当たり前ですし、教員も学生に問いを投げかけることがよくあります。

このスタイルは、上手く行けば学生もより授業にコミットするし、教員の説明しきれていない部分についても補われるので授業が大変充実するのですが、必ずしもそうはいきません。

一番多いのは、講義の内容とほとんど関係のない内容を、思いつくがままにベラベラとしゃべり出す学生です。こういう学生に限って教員の回答に再度反論したり、毎回の授業の度に発言をするので、その度に講義がストップしてしまいます。

先日あった国際関係論の授業では、教員がそういった学生を指す前に「質問やコメントは受け付けるけど、 ここは君のマニフェストを聞く場所ではないよ」と言うほどでした。

悪いところ③:キャンパス中のWiFiが逆効果
これは授業というより学生の姿勢の問題ですが、UBCの学生は、とにかく授業中にFacebookを見ている割合が本当に大きいです。笑 

UBCはキャンパス全体にWiFiが張り巡らされているので、ラップトップかスマートフォンがあればいつでもインターネットにアクセスできるのですが、このためノートをラップトップでとる多くの学生が、授業中にネットサーフィンをしています。

ノートをとりつつたまにFacebookをチェック、くらいならまだいいのですが、オンラインゲームをしていたり、男子学生があやしいサイトを見ていたりするのを見ると、これはむしろWiFiを使えなくした方がいいのでは…と思ってしまいます。

以上見てきた通り、海外大学の授業と言っても一長一短であり、日本の大学に比べて何から何まで素晴らしい訳ではありません。留学を考える際も、留学先の大学の環境について冷静に分析した上で、判断することが必要なのでしょう。


おまけ:キャンパスの上空を横切る渡り鳥の群れ(少し見にくいですが…)

*1 四年制の大学までは目指さない学生や、四年制大学に入りたいがまだ成績の足りていない学生などが集まる二年制の大学のこと

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