2011年10月23日日曜日

22歳になりました。

このブログはバンクーバーという都市や海外大学への留学に興味のある方に面白いと思っていただける記事を書くことを目標として始めたのですが、実際には直接の知り合いの方にも多く読んでいただいているので、今回は個人的なことについて書きたいと思います。

2011年10月19日に、私は22歳となる誕生日を迎えました。

誕生日当日は中間試験期間の真っ最中ということもあり、夜にルームメイトとキャンパス内のバーに飲みに行った以外は朝から晩まで勉強をしていて、受験勉強をしていた高校三年生の頃とほとんど変わらない一日でした。

私は一般的に見れば、勉強をすることが好きな人間だと思います。高校生の頃の受験勉強も、センター試験の対策を除けばとても楽しんでいた記憶があります。知識が増えるにつれて世の中の様々な出来事が繋がったときの喜び、自分の頭で考え続けて問題を解決したときの興奮。この感覚は大学に入っても変わることはなく、特にUBCで勉強に集中して時間を注ぐようになってからは特に強く感じています。

同時に私は昔から、ちょっと無茶なくらい色々なことに挑戦をして、新たな出会い、発見、そして成果を出すことに喜びを感じていました。中学三年生のときは、地元の少年団でスキージャンプとクロスカントリーをしながら、学校ではハンドボール部、生徒会に所属し、合唱コンクールの指揮者などもしていました。大学に入ってからも、大学の授業の他に学生団体やNPOの手伝いなど、常に三つくらいの活動を並行させていました。新たな世界が広がる可能性を提示されたとき、それが自分の信念に合ったものならほとんどを選択し、振り返ってみてもその決断の9割は正しかったと信じています。それぞれの活動から多くのことを学ぶことができましたし、何よりもその中に楽しみを見いだしていました。ほとんどの活動を途中で辞めずに続けたのは、その証拠だと思います。

こうした生き方が理想的かと言われれば、決してそうではないでしょう。勉強よりも自分の趣味を楽しんだり、友達や彼氏彼女との時間を大切にしている人の生き方は私にはとても素敵に映ります。色々なことに手を出したというのも飽きっぽい性格の裏返しで、一つのことに集中してその道を突き進んでいる人にはどんどんと差を広げられているように感じます。家族や親友をもっと大切にできる人間にならなくてはいけないといつも反省をしていますし、社会の役に立つためにも自分の専門性を早く見極め、磨かなくてはいけないと強く思っています。

それでも、学ぶことや考えることから生まれる喜び、未知の世界への好奇心、挑戦することで得られる達成感は、これからも私の生きる原動力であり続けるのだと思います。これらは幼稚園の頃にジグソーパズルに熱中していたときから、幼なじみの家にあった外国の絵はがきに憧れていたころから、運動音痴であるにも関わらずスキージャンプを始めた小学五年生のときから変わっていません。この意味では、3歳のときも22歳の今もそしてきっと60歳になっても自分は自分のままなのだと思います。

一方で大きく変わったこともあります。

誕生日当日はFacebookやメールで多くの方からお祝いの言葉をいただき、大変嬉しく思うとともに、これまでの22年間、特に大学に入ってからの4年間で、世界中の様々な人たちと出会ってきたことを実感しました。

これらの出会いは、これから自分が進んでいく方向性に大きな影響を与えました。

高校三年生の頃に出願する学部を迷っていたとき、「経済学とはカネを扱う学問である」という趣旨の経済学部の紹介文を読んで「自分はお金には興味はない!」と思い、他の学部を選んだ記憶があります。それが今やUBCで経済学を学んでいるのは、大学二年生の頃に訪れたタイで、リーマンショックの影響で工場が閉鎖され昼夜逆転で働いている若者と出会い、いかに経済が人びとの生活を規定しているかを実感したことが大きな要因でした。

元々外交官を目指していたのに外資系のコンサルティング会社に進むことを決めたのも、ミャンマーに二週間滞在するLearning Across Bordersのプログラムで二人の外資系コンサルタントの方と出会い、ビジネスに携わる人たちの多くが真剣に社会を変えようとしていることを知ったのがきっかけでした。

大学入学時に第二外国語を選ぶ際、中国人とだけ話せても仕方がないと思いフランス語を選択しました。しかし今は、大学二年生のときに参加し、その後運営に携わった京論壇を通じて、エネルギーに溢れる中国の魅力、そして日中の間に存在する様々な問題の根深さを知り、中国人と話をすることが日本人にとってどれだけ大切かを実感しました。

この22年間は同時に、「この人たちには追いつけない」と思うような才能溢れる方々との出会いの連続でもありました。同い年でありながら抜群の運動神経と勝負強さでオリンピックに出場した友人、常に笑いを誘い、周りを明るくしてくれる高校のクラスメイト、心の底から湧き出る愛情と責任感で国際協力に従事する模擬国連の先輩たち、膨大な知識と深い思考を持つ研究者志望の東大生、次から次へと本質を突いたアイディアが飛び出てくるクリエイティブな社会人の方たち。刺激を受ける一方で、自分はこの人たちと同じ分野ではとても戦えないと痛感しました。このような出会いは逆に、自分は何であれば自分の力を生かせるのか、この人たちと協力して面白い取り組みをするには何が必要なのかを考える機会を与えてくれました。

来年春には大学を卒業し社会人になりますが、これからも心を大きく揺り動かされるような出会いがたくさんあるのだと思います。もしかしたら今ここに書いていることを全て覆されるかもしれません。4年前の今日、札幌の実家で勉強をしていた高校生の自分が、4年後にはるか遠くバンクーバーにいるとはとても考えていなかったのと同じように、26歳の自分も今は全く予想の出来ない自分であることを願っています。

まだまだ未熟な身ではありますが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

2011年10月16日日曜日

海外大学の授業は本当に素晴らしいのか? -UBC授業の長所短所-

日本の大学の友達と話しているとよく「日本の大学の授業は、教授が一方的に話すだけでつまらない。学生が勉強に熱心でない責任の一端は大学側にある」といった趣旨の不満を聞くことがあります。一方で海外大学の授業(特にアメリカ)については、マイケル・サンデルのハーバード白熱教室が昨年大ブームになったのに象徴されるように「インタラクティブで面白い」「教授がしっかりと準備をし、とても作り込まれている」というイメージがあるように思います。

UBCで授業を受け始めて一ヶ月半が経ちましたが、今回はこのようなイメージが正しいのか、UBCの授業のいいところ・悪いところを紹介しながら検討してみたいと思います。今回は授業内容については詳しく触れませんが、参考までに以下の五つが現在私が受けている授業(聴講含む)です。

Intermediate Microeconomic Analysis(中級ミクロ経済分析)
Intermediate Macroeconomic Analysis(中級マクロ経済分析)
East Asian Military systems and warfare China(東アジアの軍事システムと中国の戦争)
International Relations Theory and the International System(国際関係理論と国際システム)
Elementary Statistics for Applications(応用のための初等統計)

いいところ①:学習サポートが手厚い
まず第一に挙げられるのは、大学側が「どうすれば高い学習効果の授業が実現できるか」をよく考えているため、学習サポートが大変手厚いことです。経済学や統計の授業では課題や小テストが頻繁に出されるため、学生は定期的にそれまでの学習内容を復習し、かつ自分の頭で考える機会を得ます。課題や小テストは全て採点され、VISTAと呼ばれる授業管理用のウェブサイトで平均点、最高点/最低点なども発表されます。このサイトにはディスカッションのページが設けられており、課題提出前には、問題の解釈などについて学生の間で頻繁に議論が交わされています。


ウェブ上で試験の点数などが確認できる

他にもVISTAでは授業用のスライド、リーディングアサインメントなどがダウンロードをすることが出来、著作権の問題でウェブ上で共有できない論文は、まとめて印刷されてブックストアで販売されています。日本の大学では、資料室に行っていちいち自分で印刷しなくてはいけなかったので、大変便利です。


ブックストアで販売されているカスタマイズされた論文集

またいくつかの授業では、i-Clickerというシステムを使って、授業中に選択問題が出題され、学生がクリッカーにあるボタンを押して回答する、というものがあります。学生のクリッカーは全て登録されており、この正答率が成績に反映されるので、学生は真剣です。

授業中に出されるi-Clikerでの選択問題

以上のように、大学による学習サポートは大変工夫されており、これが授業の満足度の向上につながっていることは間違いありません。日本の大学のように、教授が延々としゃべりつづけるだけの授業がひたすら続いて、成績は期末試験の一発勝負、という授業はUBCではまずあり得ません。

いいところ②:教授のプレゼンが上手い
続いて挙げられるのが、授業を教える先生のプレゼンの上手さです。全員に当てはまるわけではありませんが、多くの先生が堂々とボディーランゲージを交えながら授業を展開するため、学生もより集中して授業に耳を傾けます。

私の受けている「東アジアの軍事システムと中国の戦争」という授業では、カナダ人の先生が3時間連続で弾丸トークを展開します。内容は諸子百家や孫子の兵法など、きわめて堅い話なのですが、実際のエピソードをユーモアを交えながら紹介しつつ重要な概念を説明するので、聞いていて全く飽きません。

こういったプレゼンの上手さについての日本とアメリカなど欧米諸国の違いは多く議論されていますが、参考までに先日twitterで話題になっていたアメリカの小学校でのプレゼン指導についてのブログ記事を紹介します。

http://kateikyoiku.blogspot.com/2011/09/blog-post_20.html

いいところ③:「勉強するのが当たり前」という雰囲気
最後に挙げられるのは、これは授業というより大学全体の雰囲気の話になるのですが、学生の勉強に対する意識が大きく異なることです。

先ほど述べた通り、出される課題の量がきわめて多いので、学生は時間を見つけては常に勉強しています。土日の夜11時すぎでも、大学の図書館は人であふれ、多くの学生が課題や試験勉強に励んでいます。このような環境にいると、周りに刺激されて自然と勉強をしよう、という気持ちになります。こうした相乗効果が、学生全体がより多くのことを学習するのに貢献していると思います。

少し話がそれますが、このような学生の勉強に対する姿勢の背景には、退学率の高さも関係しています。UBCでは、学部によっては半分近くの学生が単位を取得できず、退学になっているという話を聞きました。ブリティッシュコロンビア州のコミュニティカレッジ*1では、UBCを退学した学生のための、「もう一度UBCに入り直そう!」という目的のコースまであるそうです。

さて、以上のようにUBCの授業の長所を挙げてきましたが、必ずしも「UBCの授業万歳!」という訳ではありません。授業を受ける中で、いくつか問題点も見えてきました。

悪いところ①:必ずしも授業の質が高いわけではない
UBCの授業を受けていて残念に感じたことの一つが、学習のサポートは素晴らしくても、授業そのものも素晴らしいとは限らない、ということです。私の在学している東大と比べて、UBCの指導教員はきわめて若く、かつ様々な国籍の人が集まっています。私の受けている5つの授業の内3人は(外見上でしか判断できませんが)明らかに30代で、また国籍もカナダ人は一人だけで、イギリス、ブラジル、中国、イスラエルとバラバラです。

その若さゆえに、教えている内容についての教員自身の理解度について、聞いていて不安になることがしばしばあります。ミクロ経済の授業で基本的な需要曲線のx軸y軸の単位が怪しかったり、計算ミスを繰り返したり、学生の質問に対しても正確に回答をできていない、ということが日常的に起こるのは、その学術分野の第一線で活躍している教授の多い東大ではあまり考えられないことでした。

また国籍が多様なため、英語のネイティブでない教員も多くいます。このため、中には授業の内容を限定された語彙力でしか説明をすることができておらず、なにか底の浅い印象を受けてしまう授業もあります(同じくネイティブスピーカーでない私が偉そうに言えることではありませんが…)。

UBCの教員採用ポリシーについてはよく知りませんが、「教員一人に対する学生の割合が小さい」という一般的に言われるアメリカやカナダの大学の特徴は、必ずしも教員の質を維持した上で実現されている訳ではないのかもしれません。

悪いところ②:学生の質問が授業の進行を妨げる
欧米の大学の授業と聞くと、学生が積極的に発言し、教員との活発なインタラクションがある、というイメージがあるかもしれません。

これはUBCでもたしかに事実です。学生が手を挙げて質問をすることは当たり前ですし、教員も学生に問いを投げかけることがよくあります。

このスタイルは、上手く行けば学生もより授業にコミットするし、教員の説明しきれていない部分についても補われるので授業が大変充実するのですが、必ずしもそうはいきません。

一番多いのは、講義の内容とほとんど関係のない内容を、思いつくがままにベラベラとしゃべり出す学生です。こういう学生に限って教員の回答に再度反論したり、毎回の授業の度に発言をするので、その度に講義がストップしてしまいます。

先日あった国際関係論の授業では、教員がそういった学生を指す前に「質問やコメントは受け付けるけど、 ここは君のマニフェストを聞く場所ではないよ」と言うほどでした。

悪いところ③:キャンパス中のWiFiが逆効果
これは授業というより学生の姿勢の問題ですが、UBCの学生は、とにかく授業中にFacebookを見ている割合が本当に大きいです。笑 

UBCはキャンパス全体にWiFiが張り巡らされているので、ラップトップかスマートフォンがあればいつでもインターネットにアクセスできるのですが、このためノートをラップトップでとる多くの学生が、授業中にネットサーフィンをしています。

ノートをとりつつたまにFacebookをチェック、くらいならまだいいのですが、オンラインゲームをしていたり、男子学生があやしいサイトを見ていたりするのを見ると、これはむしろWiFiを使えなくした方がいいのでは…と思ってしまいます。

以上見てきた通り、海外大学の授業と言っても一長一短であり、日本の大学に比べて何から何まで素晴らしい訳ではありません。留学を考える際も、留学先の大学の環境について冷静に分析した上で、判断することが必要なのでしょう。


おまけ:キャンパスの上空を横切る渡り鳥の群れ(少し見にくいですが…)

*1 四年制の大学までは目指さない学生や、四年制大学に入りたいがまだ成績の足りていない学生などが集まる二年制の大学のこと

2011年10月5日水曜日

多文化社会バンクーバー -台湾フェスティバル編-

バンクーバーのダウンタウンを歩いていると、ある化粧品の広告を見つけました。


異なる人種の女性三人が一枚の写真に映っている、なるほどバンクーバーらしいなぁと広告を見ながら感じました。

ご存知の方も多いと思いますが、バンクーバーは移民の街です。19世紀よりゴールドラッシュや漁業の拡大、鉄道建設により世界中から移民が集まり、20世紀後半になってからも、自然と都市文化が両立された環境に惹きつけられ、人の流れが絶えることはありませんでした。1997年の香港返還の際には、共産主義化を恐れた多くの香港人がバンクーバーへやってきました。

このため、海外で生まれた居住者の割合は39.6%で、北米で二番目となっています(ちなみにニューヨークは27.9%)。市民の民族構成も、きわめて多様です。


Statistics Canadaより(複数回答可)

実際に街を歩いていても、すれ違う人たちの顔立ち、肌の色、ファッション、聞こえてくる言語など、本当に様々です。レストランも、日本食はもちろん、マレーシア、メキシコ、ギリシャからアフガニスタンまで、世界中から移民がやってきて、それぞれの国の料理を提供しています。バンクーバーにやってきた当初は、世界中から一斉に人がやってきて集団生活を始めたような街の雰囲気に、日本との大きな違いを感じました。

そんなバンクーバーで、先月TaiwanFestというイベントが開催されました。中国との複雑な歴史を持つ台湾について、正しい理解やその魅力を伝えようと企画されたようです。


 台湾料理のスタンドに行列を作る人たち(HPより)


台湾名物の一つ、牛肉麺(HPより)


台湾の伝統文化の紹介も(HPより)

ここまではよくある異文化紹介イベントなのですが、大変興味深かったのは、メイン会場で行われた、台湾の人気歌手Della(丁噹)のコンサートでした。


Vancouver Art Gallery横に作られた特設ステージ


台湾ではヒットチャート1位を獲得しているらしい


当日の地方紙では"east meets west"という題で一面に取り上げられていました

私も興味本位でライブを見に行ったのですが、会場は既に大勢の人で溢れていました。


Dellaのステージに集まったたくさんの人々(HPより)

最初は「この歌手、カナダでも人気あるのだろうか」や「それとも自分みたいにミーハーで見に来ているのかな」などと思っていたのですが、ライブが始まってから徐々に異変に気づきます。

どうやらこの狭い会場に集まっている千人を超えるだろう観客の多くが中国系の人びと(そしてそのほとんどが台湾系中国人)のようなのです。

会場には白人はほとんどおらず、集まっている人はほぼ外見上アジア系でした。さらにライブ中のMCは全て中国語で行われていたのですが、観客のほとんどはMCの内容を理解しており、時折交わされるジョークに笑っていました。ライブの最後に彼女の代表曲らしい"我愛他"という曲が演奏されたのですが、会場中が大合唱をしていました。


全て中国語で行われるMCと演奏


観客が共に歌ったDellaの代表曲"我愛他"(HPより)

「そりゃあ彼女の曲に興味があるからわざわざ集まっているのだろう」と言われれば確かにそうなのですが、はるか離れたバンクーバーで、台湾にルーツを持つ人たちが千人近くも集まり、一つの曲を共に歌っているという事実が、私にとってはとても新鮮でした。だって東京でイタリアの有名な歌手がイタリア語でイベントを開いても、さすがにここまでイタリア人は集まらないですよね?台湾のように決して大きくない島から多くの人々が移り住み、そのカルチャーを今なお共有していることが興味深く感じられた一日でした。


おまけ:キャンパスへの帰り道、橋から撮影したバンクーバーの夜景(だいぶボケていますが…)