2011年11月27日日曜日

アジアの中の「グローバルネイティブ」

MITを卒業された方が書かれているブログ「My Life After MIT Sloan」に「『グローバルネイティブ』たちがやってくる」という記事が載っていました。小さい頃からグローバルな情報に身近に接してきた今の10-20代の「外向き」層は、昔よりもずっと若い時点で世界に向けて発信をしたり、世界で活躍をしている、という内容だったのですが、これに対しtwitter上で「アジアには日本の若手よりグローバル20代が溢れている」と指摘をされている方がいました。

私は大学生活の中で、模擬国連の全米大会京論壇、東南アジアを訪れるLearning Across Bordersのプログラム、そして現在のUBC留学など、いくつかの場面でアジアの「グローバルネイティブ」と接する機会があったのですが、「グローバル」という言葉では表しきれない、国ごとの「グローバルネイティブ」の特徴の違いを感じました。「日本の若者はグローバルに見て劣っている」という一面的な見方には限界があると思うので、他のアジアの国の若者と比較をしながら、日本の「グローバルネイティブ」の強み/弱みについて考えてみたいと思います。

1.    競争社会型グローバルネイティブ(シンガポール、韓国、香港など)
多くの方がご存知の通り、シンガポールや韓国の若者は小さい頃から厳しい競争にさらされます。シンガポールでは小学校の段階で成績によってクラスが振り分けられ、韓国では多くの子どもが英語しか使えない「英語村」に通っていると聞きます。

こうした環境の中で勝ち上がった学生は、語学力のみならずプレゼンテーションなど自分を表現する能力についても、極めて高いレベルを持っています。模擬国連の全米大会では、韓国の延世大学のチームが、参加している大学の8割以上は米国の大学であるにも関わらず、約1割の参加チームに与えられるOutstanding delegationを受賞していました。

これらの国のグローバルネイティブは、小さい頃から「海外で学ぶのが当然」という意識が植え付けられています。シンガポールでは、最上位層が米国のアイビーリーグなどの名門大学、次の層が国内の三大学、これに入れないとやむなくオーストラリアやニュージーランドなど、他の英語圏の大学に進むそうです。今年の夏に参加した北京大学のサマースクールで出会った香港人5名も、全員がLSEUCLなどイギリスの大学に通っていました。

グローバル化に伴う国家の人材育成政策と、留学や語学力習得のための教育環境の整備によって、これらの国の多くの若者が学部生の段階から海外へと移り、欧米の学生と関わりながら世界の動向やルールを学んでいるのです。

2.    途上国型グローバルネイティブ(中国、ミャンマー、タイなど)
一方、中国や東南アジアの途上国のごく一部のエリートには、競争社会型グローバルネイティブにはない、「自分の国に対する強い問題意識」があるように思います。ミャンマーで出会った17才の友人は、「恵まれた才能と環境を持った自分がこの国を変えるしかない」と熱く語っていました。

こうした問題意識を持つ彼らは、自国に対する豊富な知識と自分自身の意見を持っています。京論壇に参加した北京大生の多くが、中国国内に存在する問題について事細かに語り、それに対する自分の考えを東大生に述べていました。ミャンマー人の別の友人も、アウンサンスーチー氏が09年に再び軟禁された事件について、単に他の人の意見を述べるのでなく、自分で考え抜いた独自の見解を主張していました。

そして私は、彼らが情報のグローバル化の恩恵を最も受けているのではないかと考えています。中国では政府の統制がかかっている国内メディアは信頼できないため、これらのグローバルネイティブは、The New York TimesBBCなど複数の海外メディアから情報を得ながら、今中国や世界で何が起きているかを把握しようとしています。またミャンマーのヤンゴン市内には、iTunes Uに収録された世界中の大学の授業を視聴できるライブラリがあり、インターナショナルスクールの学生などが足繁く通って活用をしているそうです。

(補足をすると、中国については一言に若者といっても様々なので、1.のような若者も多くいると思います。ですが、UBCの中にいると、韓国やシンガポール、香港などの学生と比べ、中国からの留学生はどうも欧米のカルチャーになじめていないような印象を受けます。)

3.    日本型グローバルネイティブ
これらを踏まえ、日本のグローバルネイティブについて見てみると、たしかに競争社会型グローバルネイティブに比べると英語力やプレゼン、議論力などは劣るかもしれませんし、途上国型グローバルネイティブほど自分の国に対して強い問題意識や知識を持っている訳ではないと思います。しかし、日本型グローバルネイティブの強みを一言でいうならば、それは「社会に対する多様な問題意識」なのではないでしょうか。

冒頭のブログ記事に、「ワールド・エコノミック・フォーラムの今年の日本人若手リーダー30人のプロファイル」というものが載っていました。これを見ると、30人の方々がそれぞれ様々な問題に取り組んでいることが分かります。私の周りでも、多くの学生が、それぞれの問題意識で海外に飛び出したり、学生団体を立ち上げたりしています。

特に日本の「外向き」志向の若者は、途上国開発をはじめとする世界中の問題に目を向けています。これは途上国型グローバルネイティブにはあまり見られないでしょう。北京大の学生からも「途上国の開発に携わりたい」といった目標は一度も聞いたことがありません。

また日本の学生は、授業の制約が大きくないため、学生の内から自由に活動の視野を広げているように思います。色々な人と話をしながら問題意識を醸成し、それを実行に移しているため、それぞれの思いが活動に込められています。一方、私の出会った競争社会型グローバルネイティブの中にも課外活動をしている学生はいたのですが、レジュメには良く書けそうだけど根底にある問題意識が伝わってこない、そんな底の浅さを感じた記憶があります。

さらに東京に関して言えば、大学や年齢を超えて人びとが意見を交わし合う、極めて特異な環境が存在しているように思います。どれだけ情報がグローバル化しても、何か行動を移す際には直接話を聞く、ということが大変重要になります。東京では、一足先に世界へ飛び出した20代後半から30代の前半の方々が学生に経験を伝える機会が多くあり、また学生同士の間でも大学を超えてSNSなどを活用しながら日々意見が交わされています。競争の激しい大学にいる学生たちは学内のクローズドな環境の中だけで交友関係が留まることが多く、途上国では東京のような活発な情報の交流は若者の間ではあまり起こっていないように思います。

以上、アジアのグローバルネイティブを比較しながら、日本の「外向き」志向の強みや弱みについて考えてみました。一般的に「グローバル人材」の資質として言われるのは、競争社会型グローバルネイティブの持つ語学力や自己発信力であると思うのですが、これについてはその後の努力で追いつくことが十分に可能でしょう。途上国型グローバルネイティブの持つようなハングリー精神を身につけるのが難しかったとしても、彼らから学びつつ、日本の恵まれた仲間と環境を生かせば、私たち日本の若者もグローバル化の波に乗ることができるのではないでしょうか。


 おまけ:バンクーバーにもついに雪が降りました!

3 件のコメント:

  1. はじめまして。慶応大学四年の山口洋一郎といいます。興味深くブログを読ませて頂いています。今卒論でアメリカの国際法政策について書いていて、先行研究でBOCのMichael Byersの著書や論文を読んでいます。将来修士でBOCへの進学を考えていたので、BOCの様子がいろいろ分かってとても嬉しいです。これからもブログ楽しみにしてます。

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  2. すみません、BOCじゃなくてUBCでした。

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  3. >ヤマヨウさん
    コメントをいただきありがとうございます!大変励みにまります。

    そうでしたか。私は経済学を中心に履修しているので、その教授については知らないのですが、もしUBCのことで知りたいことなどありましたらいつでもご連絡ください!

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